求められる究極の「安全性」と「経済性」

船は大きく分類すると客船・貨物船・漁船に分類されます。その中でマキタのエンジンが搭載されるのは主に貨物船。そして貨物船用のエンジンには、特に二つの“性能”が求められます。それは一つが船舶用エンジンに共通する「航海を前提とした安全性能」であり、二つ目が世界の物流ビジネスの主役である貨物船に求められる「究極の経済性能」です。

航海を前提とした安全性能

それはまずタフであること。自動車のエンジンが24時間何日も連続して稼働することを求められることはまずありませんが、船のエンジンの場合はむしろそれが通常です。港を出て次の寄港地までは止まれない。船の場合はエンジン停止が即、座礁や漂流の危機につながるのですから。実に10万時間の稼働をしてもビクともしない強靭さが、船舶用エンジンには求められるのです。

また、万一航海中のエンジンに故障が発生した場合、船は洋上にあるためすぐに当社の技術者が駆けつけて修理するというわけにはいきません。したがって乗組員が対応せざるを得ない。しかし、簡単な修理は乗組員でできてもトラブルシュートはメーカーの技術者でないと不可能です。そのため、船のエンジンにはわかりやすい構造が求められる。それが、船舶用エンジンがなかなか電子化されず、長く機械構造で造られてきた大きな理由です。

究極の経済性能

いかにローコストで効率的に稼働できるか。それは地球規模の物流の主役として、熾烈なビジネス競争の中で航行する貨物船のエンジンにとっては宿命的とも言えるテーマです。

大半の船舶用エンジンに、ガソリンエンジンではなくディーゼルエンジンが使われるのもその圧倒的な熱効率のよさから。しかも燃焼条件も良いためどんな燃料も使用可能で、今日主に使われているのはC重油という極めて低質で廉価な燃料。いわば石油の残り物(残渣油)で過酷な稼働をこなす船舶用エンジンは“廃棄物処理工場”にも例えられ、究極の省エネ・ローコストを実現しています。

自動車用エンジンと船舶用エンジン

自動車のエンジンと船のエンジン。いずれもシリンダ内で燃料を燃焼(爆発)させ、その爆発力でピストンを上下させて動力を取り出すという基本原理に違いはありません。ただ構造においては自動車エンジンでは“ガソリン☓4サイクル”が、船舶用エンジンでは“ディーゼル☓2サイクル”が主流です。その違いはどこからくるのでしょうか?また自動車エンジンでは「2サイクルは4サイクルより燃費が悪い」などと常識のように語られます。もしそれが普遍的な事実であれば、自動車以上に燃費性能への要求が厳しい貨物船用のエンジンになぜ2サイクルが採用されるのでしょうか?

自動車用エンジンと船舶用エンジンの構造の違いは、主にその大きさと要求の違いからきています。自動車ではまず小型・軽量が必須の条件です。それにはガソリンエンジンのほうが適している(もっとも最近では、一概にそうとは言えなくなっていますが一般論として)。そしてガソリンエンジンにおいて4サイクルと2サイクルどちらを選択するのがベターかとなると構造の複雑さに目をつぶれば、燃費がよく低速から高速まで動作性が確実な4サイクルとなるのです(これも一般論として)。

しかし、船では事情が違ってきます。まず船のエンジンは自動車と比べるとケタ外れに大きい。ディーゼルエンジンは大きいほど“力づよさ”や“熱効率のよさ”などの強みを発揮します。また燃料も廉価な重油を使用でき経済的にも最適。さらに回転数60-120rpm程度と超低速で運転される船舶用の大型ディーゼルエンジンでは一回転ごとに毎回燃焼(爆発)するという2サイクルの良さが最大限引き出され、熱効率は50%にも達します。その結果、大型・低速のディーゼルエンジンは「もっとも効率のいいエンジンの一つ」と言われるほど。

自動車と船それぞれにベストマッチなエンジンを追求した結果が、自動車では“ガソリン☓4サイクル”であり、船では“ディーゼル☓2サイクル”だったというわけです。